ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「み、美奈子さん・・・・」。

「・・・・井上くん・・・・」。

「美奈子さん・・・」。

「助手席乗って」。

いきなりのご指名。
さすがに頭のいい美奈子さん。「僕たちは二度と同乗することはない」ことを理解されておられました。

何も知らず「お誘い」に舞い上がるグレート井上くん。

しかも車が、なぜか「クラウン」。

「あれ・・・。美奈子さん。どうしたんです？このクラウン・・・」。

「あー。スターレットね。フロント、グッシャリだから。チャーリー君の修理工場に出したら、お父様がこれを代車にって・・・」。

スターレットの代車がクラウン？
バカじゃないのか？チャーリーの親父・・・。
きっと美奈子さんが、あまりに美人だったため、鼻の下長くして自分の車貸してよこしたに違いありません。

グレート井上くんはわくわくと助手席へ。こんなに幸せそうな井上くん見るのはひさしぶりです。
もちろん、美奈子さんも幸せそうでした。まったく別な意味で・・・。

ウイイイイイイ・・・

パワーウィンドウを下げ、得意満面な美奈子さん。

「今日は、もうひとつの教会行ってみるわ」。

そうですかー。「左折と直進」でねー。
ま、グレート井上くんのナビなら、大丈夫でしょう。

「でもこの車、コラムシフトみたいなのよねー。イマイチつかめなくって・・」。
（コラムシフトとは、ハンドルの横にギアレバーがついているやつです）。

「いや・・・。あの・・・美奈子さん・・」。

カチカチカチ

「美奈子さん。そっちウィン」バキッ「カー・・・・」

あーあ・・・・。
美奈子さん。ウィンカーレバーをシフトレバーと間違えて、おもいっきり折ってしまいました・・・。

ま。いいかチャーリーんとこのだし。部品はいくらでもあるだろ。

その様子の一部始終を確認し、さすがに察知したのかグレート井上くん、
「お、お前は行かないのか？」

「んー。僕はその～。実はなぁ、井上。美奈子さん免許・・・」。
すかさず美奈子さん
「おほほほほ。行くわよ。井上くん！」

ブオオオオオオオオオ・・・

グレート井上くんの際限ない不安をつんだまま、美奈子さんは発進したのでした。


さて。もう一方の西条くんたちグループ。
なにをしているのか、少し不安でしたので、大急ぎで現地へと向かう僕。

予感は大当たり。

西条くんたちは、保育園の子供たちと、おもいっきり遊びまくっていたのでした・・・。

「西条！」

「おおー。来たのか。お前も雪合戦まじれよ」。

こいつ。頭脳は5歳児なみです。
見れば、まー子供のなついてるわなついてるわ。
すでに保育園内に入ることも許可されているようでした。

「いや・・・。雪合戦はいいんだけど、ジェミー見なかったか？」
「ジェミー？そう言えば、今朝からずっと見てないな・・・」。
「そっか。こっちに来てたんじゃないのか・・・」。

僕たちのグループは、久保くんが怪我で欠席（なんとなく原因がわかりますが・・・）。
孝昭くんはお姉さんとドライブで（これもわかります）、河野くんは食堂の手伝い、と、全メンバー、ばらばらでした。

「で・・・。森田どうしてる？」

「あ？森田？森田は、園長さんに買い物たのまれた恵美ちゃんのつきあいで・・・。しばらく戻って来ないんじゃないか？」

そっかー。めずらしく積極的だな。森田。

「大丈夫か？恵美ちゃんたちだけにして」。

「あ？でも。なー。邪魔しちゃ悪いだろ？」

西条くんたちもわかっているようです。

「それよりさ。サンタ服あったぞ」。
「ほんとか？」
「ああ。ここ、カトリックの保育園で、クリスマスの時のがあるんだってさ。園長さん、貸してくれるってさ」。

なるほど。キリスト教だからなぁ・・。


ふとふりかえると、保育園までの道を歩いて来る森田くんと恵美ちゃんの姿が見えました。
それほどに会話がはずんでいるようには見えませんでしたが、遠くから見ても、それはずいぶんと微笑ましくうつりました。

「森田！」

「あ・・ああ。こっち来てたのか？」
森田くん。少し照れています。手にはいっぱいの買い物袋。

「ああ。向こうは井上ひとりにまかせた」。

続いて恵美ちゃんが口を開きました。
「せ、せんぱい・・・こんにちは・・・」。

「やだなぁ。先輩はやめてください。同じ歳なんだから」。

この言葉に、恵美ちゃんは少し顔をくもらせました。
1年遅れて入っていることを、気にしているのかもしれません。

「いや・・あの・・。ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど・・」。

「いえ。いいんえす。気にしあいでください」。

いい子だな・・・。この子・・・。

こんな子に・・。右京たち・・・・。
僕は、胸の奥で、なんとも言いがたい感情がうずまくのを、おさえることができませんでした。


森田くんが唐突に言いました。

「あ。そうだ！あのさぁ。ロザリオ、思い出したんだよ。どこで見たのか」。

「え？ほんとか？で、どこでなんだ？」

「それがねぇ。僕も不思議なんだけどね。家の仏壇にあったんだ・・・」。

仏壇・・・・？






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　　　　　8章-第16話へつづく


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