ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜本日、3話連続です。←第61話からどうぞ＞


町にもどったのは、すでに夜中であったにもかかわらず、出迎えは賑やかでした。

僕とジェミーは、なにしろ脱走犯。
そーっとそーっと病室にもどったにもかかわらず


「遅かったな。ママチャリ」。

「ちゅ、駐在さん！・・・五十嵐さんも・・・」

それに「責任をとらせる」早苗さん。
そして婦長さん。

「獣医さんから連絡あったぞ」。

「そうでしたか・・・」。

「それからな。あの犯人つかまった」。

「やっぱり？」

話しを聞けば、気の毒にアバラが数本折れて、なんとこの病院に来て入院したままつかまったのだそうで。
マヌケと言えば、あまりにマヌケ。

「あんまり後味よくなかったがな・・・」

と、駐在さんと「アバラを折ってあげた」早苗お姉さん。

「灯油・・・盗んでたんでしょ？」

「なんでわかった？」

「やっぱり・・・・」。

犯人は、この冬に灯油も買えないほどに困窮し、最初は灯油を盗みに、タンクのある家をまわったのだそうです。
説明したように、当時、灯油タンクのある家は、共通して「お金持ち」でした。
そこから、煙突の出ている部屋のカギがかかっていないことを発見して、普通の窃盗に走ったのです。

「冬に灯油って・・・せつない話ですね・・・」。

「ああ。世の中まちがってるのかも知れんが。だからと言って盗みやっていいわけじゃない」。

「はい・・・・」。

僕たちは、悪戯半分で、そういう人を追いかけていたわけで・・・。



「あの。それで・・・駐在さんの当て逃げは、その人だったんですか？」

「あーーーー、それがーーーー、そのーーーーーー」

奥歯に大物がはさまったような言い方の駐在さん。


「えええええ！美奈子さんだったんですか？」

「その～。俺を迎えに来たとこを、ちと・・・ブレーキ踏むの遅れてな～～～～」

「マジで？」

「マジで・・・・」。

「なんだって早く言わないんです？」

「いやぁ～～～。それを西条が騒ぐだけ騒いだもんだから・・・言い出せなくなって・・・・」

「馬鹿じゃないの？駐在さん！」

「馬鹿はないだろーが！」

「じゃ、五十嵐さんや婦警さんには・・・」。

「あ。それはちゃんと言っといたぞ」。
「うん、知ってた」
と、五十嵐さん。

「なんですって～～～～～～～～～～～～～！」

　パン！　パン！　パン！

そこで手をたたいて制止したのは、婦長さんでした。

「とにかく！あんたら病人なんだからね！おとなしく寝る！」

「はい・・・・」
「はい・・・・」

「お尻に注射されたいの？」

「いえ・・・」
「いえ・・・」

→ → → → →

「おい！窓は大丈夫か？」
「おお！バッチリだ！」
と、チャーリー。

「駐在のやつ～。よく眠ってやがるな～～～～」

「なんか、あの事件から昼寝するのがクセになったんだってさ」。

「4時から重要会議あるってのになー」。
「まったくだ」。

駐在所には、小さな黒板があって、そこに予定が書き込まれています。

今日、午後4時からは、『本署で重要会議』。

「駐在さ～～～ん。おきてくださ～～～～い」

「・・・んあ？・・・なんだ、お前らか・・・。ところで今、何時だ？」

「えーっと。午後5時です」。

駐在所の時計を見ると午後5時。
腕時計を確認しても午後5時。

「え～～～～～～～！まずい！まずいぞ！」

窓からは、夕日がさしこんでいます。
駐在さんは大遅刻。

とるものもとりあえず、真っ青になって駐在所を飛び出した駐在さんでしたが

　外は昼。

「ありゃあ？」

そうです。実は「遅れた時計」の仕返しでした。
窓には、のっぽさん部隊が貼ったオレンジ色のパラフィン紙。


「くっそーーーーーーーーーー！ママチャリーーーーーーーー！」

題して『たそがれ作戦』大成功～。

→ → → → →

あれから孝昭くんは、バナナちゃんと文通を続けているようです。
停学の反省文でさえ僕に書かせていた孝昭くんが、こんなにマメになるとは、恋の力とは、本当にたいしたものです。

風の噂で、僕たちの退院後、あのE.YAMAZAWAと定子さんは結婚し、

僕は、返しそびれた和美ちゃんのシュシュを取り出しては、入院の日々をなつかしんだりもしましたが

『福島県南部で水疱瘡が大流行』のニュースを見たのは、それから1ヶ月後のことでした。



---　番外編　俺たちは風邪　完結 ---



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