ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜おことわり＞本日ちょびっとシリアスモード

「村山、右！右だ！」
「おお！」

トレノは、ライトエースの軌跡をトレースするかのように正確に右へ。

「すげー、村山。右折できるんだ？」

「はぁ？美奈子さんといっしょにするな！」

つい・・・

「あまりくっつくなよ？事故られると自損でも責任くるぞ」←(本当)
「ああ・・・でも速いな。あのトラック」。

確かに。
積雪路というのにトレノのメーターでは70キロオーバー。これはあまりに「出し過ぎ」です。
元々、トラックは駆動輪の上が荷台なので、空荷では、軽すぎてコントロールがききません。
雪上ジムカーナもやっている村山くんだからこそ、それなりにドリフトを楽しんでいるようでもありましたが

「あれ、やばいぞ」。

村山くんの言う通り、ライトエースの後輪のグリップは限界を超え、お尻を降り出していました。

「もっと車間とっとけ！」

そしてゆるやかなカーブで、ライトエースはとうとう

　ツツツツツーーーーーーー

音もなく後輪が滑り出して

「あ！」
「やった・・・・・！」

路側の雪だまりにつっこみました。

「とりあえず・・・・」
「うん。助けないと」。

この際、窃盗容疑者であるかは問題ではありません。

「ジェミー、降りるぞ」
「はい～～～～～」


ハザードを上げ、ライトエースの直後にトレノを停車。

「もしもし！だいじょうぶですか？」

窓をたたきます。

「ドア、開けますよ？」

　ガチャ

容疑者と初対面。

と、思ったら

「や・・・やぁ。君らとはまたどっかで会えると思ってたよ・・・」。

ビ

ビ

ビビビ

「BJ！」

「な、なんでこんな車に？」

BJの車は、確かミニクーパー。ライトエースなどないはずです。
いや。それよりなにより、この車はバナナちゃんが最初に疑って追いかけた車そのもの。

そこに、なんでBJが？？？？

「いや～～～。ほら、カモシカ運ぶのに友人から借りたんだ」。

「ああ・・・ナダレですね？」

「ナダレは君だろう」。

いや。それはBJが勝手に言い出しただけでしょ？

村山くん。
「とにかく、車、出さないと」。

「ああ。そうだな。じゃ、僕ら荷台に乗りますから。バックで出してください」。

後輪駆動のトラックの場合、荷台に乗って後輪のグリップ力を上げて脱出します。

「せーの！」

3人で跳ねたり飛んだり。

「ダメだ。少しタイヤの空気抜こう」。

タイヤの空気を抜くと、接地面積が増えるので、やはりグリップ力が上がり、抜け出しやすくなります。

「村山、押すほうにまわってくれる？」

そうこうして、ようやっと

　ギュルルルルルル

雪だまりから脱出。

「ふぅ～～～～～～。助かったよ～～～～～」

「先生、なにやってたんです？こんなとこで」。

「いや・・・奈々を探してた」。

「え？バナナちゃん、まだ帰ってないんですか？」

「いや・・・それが・・・・奈々から電話あったんだけど。ちょっとキツく言い過ぎて・・・・」。

「ええええええええ」。

「それで。ここいら、君らのパトロールコースだろ？」

「よくご存知ですね」。

「いや・・・ずっと・・・その・・・奈々が参加してる間・・・ずっと・・・」。

「あ。つけてたんですか？」

「人聞き悪いなぁ。ただまわりをウロチョロしてただけだよ」。

そういうのを「つけてた」って言うんですけどね。

「ほら。この車なら奈々は知らないから」。

「でしょうね。窃盗犯と間違って追っかけたくらいですから」。

「え？そうなの？」

「はい」。

「じゃ、この車、警察に通報したのも奈々？」

「あ～～～いや～～～～～それは・・・違うと思います。絶対に」。

なにしろ僕ですから・・・。

「でも、今日、やたら陽気で乱暴な警察官がやってきて」

千葉兄です・・・。

「それで・・・なんつーか、警察沙汰に首つっこむなって。つい奈々につらく当たっちゃってね」

ありゃ・・・・裏目裏目。

BJは、事情を話し出しました。

「奈々はね。両親が亡くなった時、まだ幼かったから。私が親代わりをしたところもあってね」。

「はい・・・」。

「なんていうかな。年が離れてるってのもあるんだが。一番下の妹は、手がかかるぶん、一番かわいいってとこもあって」。

「はい」。

「わかりやすく言えば、奈々がアッチョンブリケって言うか・・・」

かえってわかりにくい気もします。

でも、
「なんとなく、わかります」

「わかるかね？」

「ええ・・・。極端に妹思いな友人がいるものですから」。

「へぇ～～～。そりゃとってもいいヤツだね～～～～～」

さぁ・・・それはどうでしょう？

「こっちには9日間しかいないからね。なるべく一緒にいようと診療つれまわしたりしてたんだけど」

「はい・・・・」。

「夜中に決まって家を抜け出すものだからね・・・」。

「・・・・」。

「そうしたら、君らの仲間とねー」。

「ええ・・・・」。

「いくら18になるからと言ってね。それは女の子としては無謀だと思うんだよ。私は」。

BJから兄らしい話を聞くのは、これが初めてでした。
やはり3人妹がいても、ひとりずつ心配していたのです。特にバナナちゃん。

「それで毎晩、奈々ちゃんの後を？」

「まぁ・・・。少ない期間だからね。恋人となるべくいたいって気持ちもわかる。わかるんだが」。

BJの言いぶんは、いちいちもっともでした。

「すみません・・・先生。余計なご心配をおかけして」。

「まぁ・・・恋は盲目だから。な・・・・」。

そう言ったBJの目は、ちょっぴりさびしそうでした。

「それより君、また顔赤いけど、だいじょうぶかね？」

「あ・・・・」。

言われてみれば、体がひどくダルい気がします。
さっき寒い中で飛んだり跳ねたりしたからなぁ・・・。

「バレン！」

「？」「？」「？」「？」

あ・・・やっぱりダメか・・・・。



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