ぼくたちと駐在さんの700日戦争

美奈子さんの送りを五十嵐さんにたのみ、僕は、千葉くんに確認の電話を入れました。

”ハァハァ・・・・そう・・・・孝昭のやつさー・・・ハァ・・・明日のキップ買ってたんだ・・・・”

「わかった。サンキュー。それにしても、ずいぶんとしんどそうだな？」

”ハァハァ・・・え？・・・ハァ・・・そうか？”

「うん。だって息も絶え絶えって感じ」。

”ああ・・・ハァ・・・それはちょっと理由が・・・”

理由？？？

”いやぁ・・・・西条がさー、見舞いで貸してくれた本がまた～～～～～”

本？こいつにも西条が？

”そいでまー、ついさっき・・・・”

　げっ！

「教えなくっていいぞ。そういうことは」。

まったく、くったくないにもほどがあります。

”熱あんだけど、あれだな～～～、こればっかは衰えないもんだな～～～～”

「病気なのにつまんねーことやってんじゃねーっ!!」

あー！心配してそんした！


車にもどると村山くん。
「千葉、具合どうだった？」

「具合？ああ、よさそうだった。この上なく」

「この上なく？」

「うん。息も絶え絶えなくらい、よさそうだった」。

「？」

「千葉はどうでもいいや。とにかく孝昭見つけよう」。

すると村山くん。トレノのギアをはずして、
「孝昭はともかく、奈々ちゃんがそんなことするかな？」

「あ・・・そうか。それもそうだよな・・・」。

村山くんの言うことも一理ありました。
短絡的な孝昭くんなら、ありえないこともない話ですが、あのしっかり者のバナナちゃんがそれに同意するとは毛頭思えません。

「まさかスペインまでついてくってことはないだろうし。だいたいパスポート持ってんのか？」

「うん・・・・でも、千葉の話だと、キップは買ったらしいんだ」。

「片道かな？往復かな？」

「あ。そこまでは聞かなかった」。

「お前らしくもないな。重要だろ？そこ」


しかたないので、また千葉くんに電話です。

さっきとうってかわって、熱があっても「さわやか」な千葉くん。

”え？片道なんてやついるのか？そりゃ往復だって。お前もそうだろ？”

「はぁ？なんの話だ？キップのことだぞ？」

”あ～～～～キップ～～～～～。俺はまた～～～～やりかた聞いてんのかと・・・・”

「なんで僕が、お前のやりかた電話でたずねる!?」

”だよね～～～～～。だよね～～～～～～”

なんか「世の中でも何番目かにどうでもいいこと」を聞かされた気がします・・・。

”ただ、お前と俺とでは、往復の距離がちがう。お前のは短距離だろ？短距離往復”

「余計なお世話だっ！」

ああ・・・ただでさえ熱高いのに・・・・。


再び車にもどった僕。

「片道だってさ！」

「なに怒ってんだ？」

「いや・・・・短距離とか言われちゃって・・・・」

「なにが？」

「言いたくない」。

「？」

とても言えません。

「とにかく片道ってのはおかしいね」。

村山くんも首をかしげます。
当時、東京までの乗車券は、こづかい1ヶ月分をはるかに超える値段でした。
中途半端な気持ちで買えるものではありません。

とすると、ありえるのは

孝昭くんが「一方的に東京までついて行く」ということ。

「うーん・・・・。BJに聞いてみるしかないか・・・」。

「そうだね。奈々ちゃんの出発時刻もわかれば。それに合わせるだろうからな」。

BJに連絡すると、やはりバナナちゃんは帰って来ていませんでした。

「え？常磐線？」

「そう。朝、BJが送るらしい。朝のヒタチ2号」

「なんだって常磐線・・・・」。

「さぁ・・・？速いからかな・・・・」

わかっていることは、孝昭くんも、間違いなく「同じヒタチに乗る」ということだけ。



人気ブログランキング｜ブログ村ランキング

俺たちは風邪　第51話へ→

▲俺たちは風邪 目次へ

関連記事

• 番外編『俺たちは風邪』第51話 ヒタチ2号(3)
• 番外編『俺たちは風邪』第50話 ヒタチ2号(2)
• 番外編『俺たちは風邪』第49話 ヒタチ2号(1)