ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「ご、ごめんなさい！これ！」

あわててうがいクスリかなんかをわたす郁姉さん。

「これ・・・なんです？」

「オキシフル」。

「飲めるかっ！」

あぶね～～～～。・・・・死ぬとこだった・・・。

「郁ぅ！まったくお前ってやつはーーーーー！」

BJもさすがに妹を叱ります。

「だって～～～。奈々みたいにここの勝手わかんないんだもん」。

「ネコの尻だぞ？郁！そのへんのヤツにキスされたのとはわけがちがうぞ！」

「だからあやまってるでしょ～～～？」

「ばかもの！」

「ごめんなさい・・・」

さっきの勢いはどこへやら。さすがにしょげる郁お姉さん。

「あ。先生・・・もういいですから・・・・どうせ水疱瘡だし・・・」。

「すまない・・・・」。

わびるBJでしたが、

「神様とやら！あなたは残酷だぞ！」

いえ。やったのは神様じゃなくって、BJ一家ですけど？

「そいつがあなたのおぼしめしなら…医者は何の為にあるんだ！」

ネコの体温計、間違って使った医者の言える言葉じゃありません。
入るのは勝手ですが、責任を神様に転嫁しないでもらいたい。

もういいや・・・。

「行きましょ。美奈子さん。なんか孝昭にあったみたいだし・・・」。

「あ。うん・・・そうね・・・」。

「ごめんね～～～。美奈子～～～～～～」。

「私にあやまらなくっていいから」。

「ごめんね～～～。水疱瘡～～～～～～」。

水疱瘡が名前じゃないですけどね。
反省してもらえただけでもありがたいや・・・。ネコの尻。


外に出ると、BJがこっそり追いかけていきました。

「君、待ちたまえ」。

「はい？まだなんかあるんですか？先生」。

「あれね。嘘だから安心なさい」。

「え？嘘って？」

「ネコの検温した体温計をそのまま使ったりしないよ。ハハハハ」。

「え？そうだったんですかー？」

「ああ。でもこれで、郁も君らの暴挙はチャラにしたはずだ」。

「先生・・・・」。

あー、そっか。それでか。

「私がここで獣医をやっていられるのも君のおかげだ。私は感謝してるんだよ」

ぽん、っと僕の肩をたたきました。

「ははは。なぁんだ。そうだったんですか～～～。僕はまたてっきり」。

「そう。ちゃんと消毒してあるよ！」

「え・・・・」。

微妙～～～～～～～～～～～


「でも、君。熱高かったね。さっき見なかったからもう一度・・・」。

と言って、さっそうとコートから体温計を出しました。

「先生・・・それは・・・・」。

「ああ。これはね。雷が落ちないよう、ガラスでできた体温計だ！」

いえ。体温計はみんなガラス製だと思うんですけど・・・。

「そうじゃなくって・・・。それもネコとか犬とかないでしょうね？」

「だいじょうぶ」。

でも用心には用心で、今度はわきの下に入れました。

体温計をとりあげるとBJ。

「こ・・・これは！」

「え？どうかしました？」

「本間血腫だ・・・」。

そんなむずかしい病気じゃないと思います。
だいたい体温だけでわかんのか？本間血腫。

「水疱瘡ですってば・・・。でも40度ちかくありましたね」。

するとBJ。

「いや。この体温計は、昔、悪戯用に2度高く出るよう細工したやつだから」。

同じようなことやるヤツっているもんだなぁ・・・・。

正確な体温は38度6分でした。

美奈子さんが心配して、
「いずれにせよ、熱上がってきたわ。病院もどりましょ」。

「ええ・・・・」。

とは言え、途中で警察本署に寄らなくてはなりません。


再びトレノ。

美奈子さんは、僕を後部座席に横にしました。

人間、熱があるとわかると、どういうわけか重病っぽくふるまいます。

「・・・村山・・・。孝昭たち・・・どうしたって？」

「それがな。いなくなったんだ」。

「え・・・・？そうなの？」

すると美奈子さん。

「いいわよ。ほっときましょ？」

「え？でも・・・・明日はもう・・・東京ですよ？」

「だーかーら。2人だけでおきましょうよ」。

「あ・・・それもそうですね・・・・」。

僕は、KJ館から、美奈子さんがバナナちゃんをつれてきた時のことが気になって

「ところで美奈子さん・・・・学校で、バナナちゃんとなにを話してたんですか？」

「あー。受験のこととか話してたんだけどね」。

「はい・・・」。

美奈子さん。僕の聞こうとしたことを察知したのか

「遠く離れるとね。恋人同士って、たがいに心が離れていないか心配になるから」。

「ええ・・・・」。

「つい余計なことを考えがちだけど。でも、遠く離れて、初めて相手のことがわかることもあるでしょ、って」。

「はい・・・・」。

「遠く離れて。なおさらつのる恋もあるよ、って言ったの」。

「はい・・・」。

「なーんてね。まぁ。郁ちゃんと渡部くんはダメだったみたいだけど」。

遠距離恋愛。

僕と和美ちゃんも、もうすぐそうなるはずです。
彼女はすでに進路が決定していて、僕はまだ決まっていません。

彼女を追いかけるのか。

それとも遠距離恋愛するのか。

考えているうちに、頭痛がひどくなってきてしまいました。
気は病。
さっき熱の高さを聞いてから、僕の具合は急激に悪化し、警察署についた頃には、フラフラになっていました。

美奈子さんが僕の額に手をあてて、
「これは聴取なんて無理ねー。五十嵐巡査長さんとこ、ことわってきてあげる」。

「すいま・・・せん・・・・」。

「村山くん。ママチャリくんに水分とらせて。脱水症状おこしたらたいへん」。

「はい・・・・・」。

美奈子さんが本署に入って行き、しばらくしてから
五十嵐さんとともに、トレノの外に現れたのは、実に意外な人物でした。

「よー」。

「あ・・・・あなたは・・・・・・・」。

「ひさしぶりだなぁ」。


千葉兄っ!?


※欄栗月間　明日は『大晦日特別編』をお送りします


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