ぼくたちと駐在さんの700日戦争

7章［のぶくんの飛行機］第5話　激戦(3)


「多勢に無勢作戦」で、窮地をのりきった僕たちですが、当然翌日は、普通の校門からは下校できません。
僕たちの高校生活っていったい・・・。
校舎横の土手をくだり、やっと一般道に出た僕たち。

この日は、孝昭くんと西条くん、グレート井上くんをひきつれ、レコード屋さんに行くことになっていました。
ちょうど「風」のセカンドアルバムが発売されたからです。
そうです。「公害ブルース事件」のレコード屋さん。

レコード屋さんに着くと、おじさんが言いました。
「やぁ。君たちー。ちょうどよかった。今日、イーグルスの新しいアルバムが入荷してねー」。
「へー」。
「ホテルカリフォルニヤって言うんだけどね。なかなかいいから聴いていかない？」
「カリフォルニアでしょ？おじさん」。
「そうそう。そのカリフォルニヤ」。
ぜんぜんわかってません。まぁ、田舎のレコード屋さんなど、こんなもんでした。

「じゃぁ、聴かせてもらおっかな」。
「うん。じゃぁ、ちょっと待っててね」。

奥の部屋へと入るレコード屋さん。

「これこれ。これだよ」。
イーグルスのアルバムを持ってきて、店のプレーヤーの針をおろしました。

うんうん。なかなか♪

と、ちょうどツインギターのエンディングになったときです。


「ふっふっふ。つかまえたぞ。ママチャリ～、西条～」。

「げ！ちゅ、駐在！なんでここが？」
大驚きの僕たち。

ところが、これに答えたのは、駐在さんではなく、レコード屋さんでした。

「ご、ごめんよ。君たちぃ・・・。君たちが来たら連絡してくれって、駐在さんにたのまれててねぇ・・・」

なんと！レコード屋さんが通報！？さっき奥の部屋に行ったのはそのため？

「え！おじさん、僕らを売ったわけ！？」

「い・・・いや・・・そんな・・・売っただなんて・・・」。

「わっはっは。市民には通報の義務があるからなぁ」。
高校生つかまえるために？信じられない・・・・。

「なんで？僕らお得意様じゃん？それを・・・」

「そ、それがねぇ。駐在さん、今日、レコード買ってくれたんで・・・」。

「え、LP2枚組かなんかを？」

「い、いや。それがシングルなんだけど・・・・」。

「えー！400円で！？水前寺清子かなんかと引き換えで通報したわけ？信じらんねーーー」

「そ、それがねぇ・・・『公害ブルース』なんだな・・」。

「はぁ？」

「ちょっと在庫になっちゃっててねぇ。『公害ブルース』・・・。いっぱい仕入れたのはよかったんだけど、あの後ぜんぜん売れなくって・・・。」

確かに。あの日からレコード屋さんには、ずっと『公害ブルース大量入荷』のポスターが貼られたままでした。

売れるかっ！！！

「それで在庫買ってもらえたんで、つい・・・・・」

「それだってシングルでしょ？いくら儲かるわけ？」

「ひゃ、100円くらい・・かな？」

安っ！！！！

百円で身柄売られるとは・・・。我ながら情けない・・・。

「あの後ね。僕もずいぶんとセイヤングにリクエストしたんだけどねぇ。みのさん※ぜんっぜんかけてくれなくって」。
「・・・・」。
「ハガキ代のほうが高くなっちゃって・・・」。

馬鹿か？

「わっはっは。さぁ、同行してもらおうかなぁ？君たち」。

すでに僕の首根っこを押さえ、大得意の駐在さん。

くそ～。商店街に通報させるとは・・・。驚くほど大人げないやつです。

「ご協力感謝します！」
にこにこと敬礼する駐在さん。

ひきずられながら店を出る僕たちに、レコード屋さん。

「あ、あのさ～。き、君たち・・・・」

「なんでしょう！？」
不機嫌に答える僕たち。

「悪く思わないでね。それで、あの・・・”公害ブルース”・・・もう1枚買わない？」


つぶれろっ！！


※みのもんたさん。当時、セイヤングの超人気キャスターでした



　　　7章-第6話へつづく

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