ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜本日2話連続アップです。←第36話からどうぞ＞

グレート井上くんは、彼らしからぬ慌てようです。
「それが普通じゃないんだってば！とにかく絶対緊急事態だと思うんだ！」

「どういうことだよ？」
「落ち着いて話せ。井上」
「知ってる女か？」

「いや・・・。なんか聞き覚えはあるけど。名乗らないし・・・・」

「それで？」

「なんか放っておくとヤバそうな雰囲気だった・・・」

「井上が、フった女なんじゃないの？」
「そうそう。水子の霊の元？」
「元素記号でH2O-zero」

「冗談を言ってる場合じゃないんだ！とにかく、なんとかしないと・・・」

「なんとかするって・・・。どこの誰かもわからないんだろ？」

「あちっ！」
グレート井上くん。つけていた百円ライターが熱くなったのか、手を離してしまい、また闇が部屋を包みます。

その闇の中で、グレート井上くん。
「なにかね。放っておけない気がするんだよ」

井上くんの勘の鋭さは、誰もが認めるところでしたので、

「それで？」
「なにしたいんだ？井上」

「うん。悪いけどさ。現場に行ってくれないか」

「現場って？」
「この雷雨の中をか？」

「僕は・・・。また電話があるかも知れないし・・・。それにほら・・・」

そうです。井上家には厳しい門限がありました。
すでに外出してもどってこれる時間ではありません。

「わかった！井上。行くけど、どこなんだ？」

「それが・・・。聞いてない」

「じゃぁ行きようがないじゃん！」

「いや。公衆電話だった」

「公衆電話イッパイあんだろ？」
「ざけんなよ。井上ぇ」

しかし、ここからがグレート井上くんのグレートなところ。
「電話口で雷鳴がしてた。その雷の音がこっちで聞こえたのが約10秒後くらいだったから」

「それで？」

「つまり。稲光のあった西側。ここから3.4キロくらい先ってことだろ？」

「なるほど！電話の音は時間差ないからな！」
東側は姫沼側で、いずれにせよ公衆電話はありません。

「さすが井上！」

「3キロくらい西側って言うと・・・？」
「俺らの学校あたりじゃない？」

「うん。あそこらへんの公衆電話、かたっぱしから当たってくれ。とにかく急いで！」

まるで得体の知れない電話にこの騒ぎ。
普段冷静なグレート井上くんだからこそ、彼を動かすなにかがあるのでしょう。
それは、運命のようなものにも感じられました。

「しかたねぇなぁ・・・。雷おっかねぇけど」

「いいじゃん。西条。特殊能力身に付けるんだろ？」

「ははは。明日からわたしはスーパー西条！」

「なんかスーパーマーケットみたいだな」
「安売り王だな」

「う・・・雷あたんなくってもよくなってきた・・・」

「じゃぁ井上ぇ。自転車借りるぞ！」

「ああ。使ってくれ」

「わたしのも使って！」
夕子ちゃんが言ったものですから、

「さんきゅー！夕子ちゃん！」
「ありがとう！夕子ちゃん！」
「感謝だぜ！夕子ちゃん！」

「テメェは、井上の乗れ！兄はいいぞー」
「テメーこそ、そっち乗れ！変速ついてるぞ！」
「サドルは渡さん！」
さっそく誰が乗るかで小競り合い。

「もめてる場合か！」

グレート井上くんの家には、夕子ちゃんの物も含めて自転車が3台ありました。
それぞれに二人乗りすると6人が乗れますが、丹下くんを入れると1人分足りません。

「オマエ、走れ」
「やなこってす～～～～～」

というわけで、1台はなんと3人乗り。
丹下くんは、小さかったのでそれでもなんとかなりましたが

「うわ～～～。こいつのキ○○マくっついて気持ちわり～～～～」

「いいからさっさと行ってくれ！」

「しゃぁねぇ！行くぞーーーーーー！」

西条くんの号令一下

「西だーーーーーーーー！」
「おおーーーーーーー！」

叩きつけるような豪雨。それにまけない雄たけびをあげて、僕たちは一斉に走り出しました。



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